読了

 戦争の日本近現代史 加藤陽子

 近代日本の歴史と言えば教科書レベルしか知らない私です。この間汪兆銘を読んだついでに近代史についてまた読んでみました。
 明治維新以来日本は近代化すなわち西洋化を進めてきました。しかし尊王攘夷を旗印に政権を奪取した明治政府はどの面下げて西洋化を民衆に納得させたのでしょう。その苦しい説明を明治政府は万国公法=国際法に求めます。「これまで異人達はアジア諸国を食いものにするだけかと思っていたが、よく見てみると万国公法なるものに則って行動している。これからは彼らと渡り合う為には万国公法をもってすべきで、みだりに排斥する事は仁義の道に背くものだ。」との論理で国内を説得して行きます。
 明治政府はその成立以来征韓論台湾出兵に始り、日清・日露戦争戦争を通じ大陸へ進出して行きました。通常日本の帝国主義的な膨張と説明される訳ですが、本書で明かされる所によればその底流には政府・軍部共にいじましいほどに国際法遵守の姿勢が貫かれていたことがわかります。今日の我々から見れば大陸への進出を進めた当時の日本の行動は傍若無人としか思えない訳ですが、少なくとも当事者の意識では国際法の遵守が大前提となっていました。逆に中国への侵略を進める際の認識も条約上正当に認められた権利を侵害され、やむなく実力行使をするものというものです。自分たちは条約を守っているのに中国がそれを守らない為に正当な権利が侵害されていると言う被害者意識です。
 満州事変後のリットン調査団の報告では普通言われているように日本の主張を全面否定されたものでもなかったようです。それどころか中国による日本権益の侵害についてはほぼ認める報告がされています。にも関わらず喧嘩両成敗的裁定がなされたため、調査団への非難・国際連盟からの脱退と進んで行ったのは、日本の被害者意識が高じてそうさせたのでしょう。その後盧溝橋事件を契機に日中戦争が始まる訳ですが、その日中戦争にしても日本の立場はあくまで「事変」です。この期に及んでどっちでもいいやん、と我々は思う訳ですが、宣戦布告をして戦争にしてしまうと様々な不利が発生するらしいのです。例えば当時アメリカは中立法と言う戦争状態の国に対しては物資の輸出が出来なくなる法律がありました。当時日本は石油その他の物資をアメリカに依存していましたから、中立法の摘要を逃れる為には法的に戦争状態になることは何としても避けたかったのです。そんな立場なのに後にアメリカに喧嘩を売る事になる訳ですから世の中分らないものです。

戦争の日本近現代史 (講談社現代新書)

戦争の日本近現代史 (講談社現代新書)