読了
大村湾 松岡數充
長崎県の中心にどーんと広がっている大村湾です。湾とは言いながらほとんど陸地に囲まれ狭い2カ所の瀬戸で外海とつながっているだけの超閉鎖性海域です。その大村湾の成因や現状を地質学及び生物学的立場から論じたのが本書です。著者は長崎大学水産学部の先生。
その昔氷河期の頃は現在より海水面は120メートルも低く中国大陸も五島沖まで迫っていました。大村湾も当時は陸上の盆地だったのです。その後氷河期が終わり紀元前7000年頃から海水が流入し始め1000年程で現在の広さにまでなったようです。大村湾は南北30キロほどありますから、当時は毎年30メートル海が迫って来たことになります。当時海辺に住んでいた縄文人の皆さんは環境の変化にさぞや驚いたことでしょう*1。
水深も15メートル程しか有りません。海と言うよりも盆地に水がたまった水溜まり、それが大村湾です。現在大村湾はCODが高止まりや赤潮の多発等水質の悪化が懸念されています。沿岸の各自治体も大村湾の浄化に取り組んでいます。しかし「環境を守ろう!」というかけ声は大きいのですが、ではどのような状態になれば良いのかと言うことはあまり明確にされていません。湾内の海底は多くがヘドロに覆われています。自治体や漁業関係者の声を聞いているとヘドロこそが諸悪の根源*2みたいな言い方がされています。しかし著者はそれが必ずしも正しくないことを論証します。海底をボーリングしサンプルを取ると人為的な環境変化が起きる以前からヘドロ層は堆積しています。また赤潮も江戸時代から、恐らくそれ以前から定期的に発生しています。有機物に富んだヘドロ層と弱い海流による撹拌の少なさが容易に貧酸素水塊を発生させ、赤潮につながるのです*3。
それを踏まえての環境対策が求められるのです。
そうそう、大村湾にはクジラの一種スナメリが棲息しています。体長1.5メートルの小さい奴です。沿岸からも見ることが出来ますし、船に乗っていても見ることが出来ます。しかし元々小さいのとイルカと違って背びれが無いので探すのが難しいです。て言うかたまにしか見られません。えてして探している時は全然出なくて、何の気無しにふと見ると現れるみたいな感じです。
最近では長崎県等が宣伝しているので少しは知られて来たのですが、昔は地元の人でもほとんど知りませんでした。私も小さい頃初めて見た時両親に「クジラのおった!」と話したら全然信じてもらえなかった哀しい思い出が有ります。漁業者からは魚の群れを追い散らす嫌われ者。そんなスナメリも大村湾内に約300頭しかいません。生態系の頂点に位置するスナメリです。盆地に水がたまって出来た大村湾とそこに出来た微妙なバランスの生態系。スナメリを保護することは大村湾の全生物を保護することにつながるのです。
大村湾―超閉鎖性海域「琴の海」の自然と環境 (長崎新聞新書 (013))
- 作者: 松岡数充
- 出版社/メーカー: 長崎新聞社
- 発売日: 2004/11
- メディア: 新書
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