an unexplained observation或いはバーナードの新星の事

E・E・バーナードといえば19世紀後半から20世紀にかけての天文学界のスーパースターです。バーナードループとかバーナード星とか名前のついた天体も沢山。色んな分野に手を出しているのですが、その中にはよく分からない観測もあります。そんな観測からご紹介。

 1892年、当時バーナードはリック天文台で毎週金曜日は91センチの大望遠鏡を一人で占有していました。その年の8月のことです。ちなみに翌月には木星の第5衛星アマルティアを発見するのですが、勿論その時はそんな事知る由もないでしょう。その日明け方の薄明の中で金星を見ていたバーナードは同じ視野の中に星図にない7等星の星を見つけます。しかしその後の観測は無く、NSV03313と言う疑変光星番号がついたこの星ですが、バーナードが何を見たのか今も謎です。
 二次情報ばかりだったので色々漁っていたらバーナード自身の観測報告が有りましたので、ちょっと訳しておきます。
 14年前の事だが、1892年8月13日土曜日の朝の観測について注意を促すのに遅すぎることはないと思う。
 その日リック天文台の36インチで金星の観測をしていた時、私は何時もそうなのだが、ある星が金星と同じ視野にいるのに気がついた。その星は少なくとも7等と目測された。高度が非常に低かったので、私は高い観測台の手すりの上に立たねばならなかった。落下を防ぐため望遠鏡にしがみついていたので他の測定も出来なかった。その星の位置は太平洋標準時の4時50分に金星から南に1分、14秒先行していた。従って、グリニッジ標準時では0h50mとなる。
その時の金星の位置は赤経6h52m44s 赤緯+17°11'.8
ここからその星の位置は赤経6h52m30s 赤緯+17°11'.0
1855年分点*1赤経6h50m21s 赤緯+17°13'.6
付近には他の星もみえず、BD星表にも該当する星はなかった。この観測は白昼、日の出30分前に行われたのだ。私としては明るい小惑星の一つ(しかしケレス、パラス、ジュノーそれにベスタは他の場所にいる。)と考えない限りこの観測を説明できないと思う。
 金星の太陽からの離隔は38°であり水星の軌道の内側の天体という可能性も除外されるが、金星の内側の天体という可能性を排除するものではない。しかしそれも有りそうにない。
 私は以前はこの観測について注意を呼びかけることには躊躇いがあった。しかし今ではこれを記録に残しておくことが最善だと考えている。
 日付の誤りや金星の反射光*2であると言う可能性は全くない。この日金星の側に他の星はなかった。
 その時のスケッチのコピーも同封しておく。

現在では疑変光星NSV03313として、存在を疑問視或いは新星ちゃうか?とされていますが、面白いことにバーナード自身は、小惑星や未知の惑星と疑っていたのですね。バーナードのスケッチと当時の91センチ望遠鏡の視野のシミュレーションを上げておきます。ちなみに望遠鏡の視野は5分だそうです。

確かにそんなに明るい星は居ません。シミュレーションの方の金星の向きが間違っていますね。バーナードが正しいです。で、8月の日の出30分前、空はすっかり明るくなっています。
しかし、ほぼ水平を向いた91センチ望遠鏡を覗く為に観測台の手すりの上に立って望遠鏡にしがみつくってのは、ちょっと遠慮したいですねぇ。花山天文台の45センチ屈折の観測台の上に登った時ことがありますが、その時もかなり怖い思いをしましたけど、あんなもんじゃないですよ、きっと。

*1:for 1855だったのですが、よく分からないので分点にしました

*2:ゴースト?